首から上が、満遍なく塗装されてしまいました。
まさか、自ら進んではと言え、目や口の中まで塗装してしまうとは・・・ このまま固められたら、わたしどうなってしまうのだろう、本当に大丈夫なのかな?
「じゃあ、照射するから」と、いって碇監督さんがわたしの首から上に紫外線を照射し始めました。
「口の中にも塗装したので、口の中も少し見たいので、唇は閉じずに、ちょっとだけ微笑む感じで、そうそう、歯も見える感じで、ニコッて感じで・・・」
「目も、瞼は閉じずに開いたままね!!」
「うん、いい感じ!!」
照射はすぐに終わり、やがて、硬化が始まっていく・・・ 少し開きすぎている口を閉じようと思ったが、もうあまり動かすことが出来ない状態になっていて、瞬きも出来ない。
わたしは、興奮のあまり、肝心な事を聞くのを忘れていた。
今日、固められるのはわかっていたけど、その後どうなるのか聞いていないし、相談もしていなかったのです。
今、この後の事を聞こうと思ったのだが、遅かった・・・
もう、なにも動かない・・・
碇監督さんに聞こうにも、唇も舌も全く動かないし、おそらく口を開けて塗装していた時に、小林さんが、飲んでも食べても大丈夫って行っていたのを聞いて、少し飲んだ、わたしも悪いのかもしれない、このために、咽の奥や、声帯も固まってしまったのではないかと・・・
目にも塗装して固められてしまっているので、目で合図する事も出来ない、さらに、碇監督さんらしい、塗り残しが無いキッチリした塗装なので、耳の中まで塗装されてしまって、鼓膜まで固まってしまった様で、外の音が全く聞こえなくなってしまったのです。
わたしから、二人に伝える事が全く出来なくなってしまっている。
どうしよう・・・
でも、すごい、すごすぎる、この状態・・・
音は聞こえないが、目は見えているので、二人を確認することは出来るが、目(眼球)を動かす事が出来ないので、二人が、わたしの正面からいなくなると、全く何処にいるかさえわからなくなってしまう状況なのです。
いっぽう、変態さんのお二人は・・・
「なぁ、小林・・・ 弥生ちゃん、全身固めでも、凄いプレーなのに、本人の意思で目も、口内も固めてしまったのだけど、本人は意識がある状態なんだろ!!」
「うん、本人の意識はきちんとあるけど、こちらに伝える手段が一切なくなってしまったというのが、現状かな?」
「手段がない?」
「うん、身体動けないし、口も動かない、目で合図さえ出来ない」
「あぁ、そう言う事か!」
「じゃあ、弥生ちゃんが、もうやめたいと思っても、こちらに伝える事が出来ないじょうきょうか、凄いな・・・」
「まぁ、3時間で硬化の硬化が切れるので、特に問題はないだろう、わたしが自らの身体で実験した時も問題無かったから、大丈夫!!」
「じゃあ、この会話を聞いている弥生ちゃんも、3時間で硬化が切れる話を聞けたから、安心しているかな?」と、僕が話すと、小林は「聞こえてないよ!!」って言うのである。
「ん? 聞こえない・・・ どうして」
「だって、碇、耳の中まできちんと塗装しちゃったじゃない、あれじゃ鼓膜にも塗装が届いて、固まってしまって、鼓膜が振動しなくなるよ!!」
「あぁぁ〜」やっちゃったな・・・
ついつい、いつもの金粉の撮影の乗りで、全身くまなく塗るのが当たり前になっていたから、塗り残しが無いように塗装してしまったのである。
「じゃあ、弥生ちゃんは、今、目が見えるだけで、しかも真っ正面限定で、動けない、しゃべれない、聞こえないと言う状況か、凄いなぁ〜」
「でも、僕たちのこの会話が聞こえないとなると、弥生ちゃんは、いつ戻る事が出来るのかわからないし、これから何をされるのかわからない状況って事だから・・・・
「ちょっといたずらしようか!」
「いいね!!」と、弥生ちゃんの視線が届かない所で、悪巧みをする二人なのである。
二人が、いたずらを考えているとは知らず、弥生ちゃんは、
「こんな状態のわたしを、どこかに展示・・・」
「放置してほしい・・・」
などと、妄想に耽っているのでした・・・